保育者(幼稚園教諭・保育士)養成機関として50年を超える歴史を持つ本校は,同じ文化学園傘下の文化学園大学と連携を強化するために,今年度より校名を「文化学園大学保育専門学校」と改め,新たなスタートを切りました。多様化し続ける21世紀社会に対応したこれからの保育者を育成するためには,国際的・学際的な教育研究活動を展開する文化学園大学とのさらなる連携強化が重要であると考えてのことです。
保育という仕事は,次の世代を生きていく子どもたちを育てるというたいへん責任ある重要な仕事です。保育をとおして,保育者は子どもたちに人として大切な多くのことを教えていかなければなりません。そのためには,まず保育者自身がこれからの保育に対応できるよう豊かな教養を身につける必要があります。そのことにより,単に知識が増えるだけではなく,視野を広く持って多様な価値観を認める力や,客観的に物事をとらえ論理的な思考をする力もついていきます。こういった力を身につけてこそ,保育に関する専門的知識や技能が実践の場で発揮できるものとなるのです。
本校では,保育に関する確かな専門的知識や技能と,それらを発揮することを可能にする豊かな人間性の両方を兼ね備えた保育者の育成を使命とし,教職員一丸となって意欲ある学生の学びを全力で支援していきます。
文化学園大学保育専門学校 学校長
守 秀子
令和4年度 卒業式式辞
本日、文化学園大学保育専門学校の卒業式を迎えられた皆さま、ご卒業誠におめでとうございます。
また、この晴れの日を心待ちにしてこられたご家族の皆様方には、心からお祝いを申し上げますとともに、これまでの厚いご支援に対し、心より御礼申し上げます。
ご来賓の皆様には、ご多忙の折、ご臨席を賜り誠に有難うございます。
思い起こせば2年前、コロナ禍の不安定な情勢の中、簡略化された入学式で皆さまをお迎えしなければなりませんでした。2年間の学生生活も、授業、実習、行事など様々な場面で制約を受け、もどかしさや、緊張を強いられる事も多々ありました。そのような中でも、皆さまは保育者を目指す強い志を忘れることなく、多くの困難や制約を工夫と努力で乗り越えて勉学に励み、ここに卒業の日を迎えました。卒業生27名全員が、幼稚園教諭免許状と保育士国家資格を取得し、また全員が保育職に就くことができました。これは教職員一同にとりましても、大きな喜びであります。皆さまをたいへん誇らしく思いますし、その努力に敬意を表します。
世界の情勢に目を向けますと、戦争や感染症、自然災害、エネルギー危機、物価の急上昇など、数多くの深刻な出来事が現在進行形でおこっています。その様な時代に社会に飛び出していく皆さまの不安もまた大きいでしょう。しかし、実はこういった深刻な社会問題は、いつの時代にも見られてきたことです。ネガティブな情報ばかりに目が行きがちですが、世の中良い方向に進んでいることもたくさんありますので、そういった視点からお話をします。
スゥエーデンの医師であり公衆衛生学者であるハンス・ロスリングは、2018年に発表された著書「ファクトフルネス」のなかで、世界はここ数十年で驚くほど良い方向に進んでいるという事実を、データで示しながら明らかにしました。世界から極度の貧困状態の人は激減し、ほとんどの地域で安全な飲料水が入手でき、電気も使えています。戦争や紛争、自然災害で命を落とす人も実は激減していますし、ほとんどの国の子どもが予防接種を受けられ、教育も受けられるようになりました。男女差別や人種差別も減少、奴隷制度は消滅しました。特に近年はIT技術の進歩により世の中は格段に便利になり豊かな暮らしが生まれました。コロナ禍でもなんとか社会が回り、教育も行えたのは、このIT技術のおかげでしょう。今後は加速度的にAI(人工知能)技術が進歩し、世の中はさらに急速なスピードで変貌を遂げていくことが予測されます。
このように世の中はどんどん良くなっているのに、なぜか我々はそのことは評価せずに「世の中がどんどん悪い方へ進んでいる」という悲観的な思い込みにとらわれていることも、ロスリングは世界的な大規模調査で明らかにしました。そのことから、彼は「思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣を持とう」と呼びかけ、これをファクトフルネスと名付けました。この書は瞬く間に世界中でベストセラーになり、マイクロソフト社創始者のビル・ゲイツをして「自分がこれまでに読んだ中で最も重要な1冊だ」と言わしめました。なんと、ビル・ゲイツは2018年にアメリカの大学を卒業するすべての卒業生にこの書をプレゼントしました。
深刻な社会問題から目を背けるのはよくない事ですが、世界がより良くなっているという事実に気づくことも大切です。良くなっているという事実に気づけない人は、悪い事ばかりに目が行って悲観的になってしまいますが、気づいている人は悪い状態もきっとよくしていくことができると考え、前向きに改善策を探るでしょう。皆さまにも、そういう人になってほしいと願いますし、保育者になった際には、未来を担う子どもたちに将来を悲観的にとらえるような世界観を持たせるのではなく、どんどん良くなっている世の中をもっと幸せな社会にしていこうね、と前向きにとらえて成長していけるよう導いてあげて欲しいと願います。
保育者は、子どもたちが家族以外で最初に深くかかわる大人です。その保育の在り方が、その子の人間観や社会観に大きな影響を及ぼすことを忘れてはいけません。コロナ禍のなか、先輩保育者たちは顔がマスクで半分覆われた状態でも、全身と頭脳と心を駆使して懸命に保育をしてきました。様々な事が、AIの進歩で効率化され便利になる一方で、消えていく職業も出てくるかもしれませんが、このような保育者の役割は間違っても人工の知能にとって代わられるものではありません。この職業を選んだことに強い責任感を持つと同時に、誇りを持って生きていってください。
少子化対策が急務となっている現在、子育て支援の最前線に立つ保育者の責務はますます大きなものになっていきます。少子化問題も、悲観的にとらえるのではなく、きっと良くなっていくはずだ、いや自分たちが良くしていけるはずだと捉え、皆さまもどんどん声をあげて、よりよい保育現場を創っていってください。
皆さまがここで学んだ多くの知識や技術、マインドを現場で存分に発揮してくれること、そして、自分や子どもたち、社会がより良くなっていくと信じて、向上心をもって生きていってくれることを期待して式辞といたします。
令和5年 3月10日